kandaurizumu
カンダウリズムス







女子高に通っていた頃の話。

「”愛されるより愛したい”と”愛するより愛されたい”どっち

派?」

女同士が集まると、こういう話が話題になるのは、よくある

事だった。

女生徒たちは、あたしはこっち!いいえあたしはこっち派!

などと、自分の意見を口々に言い合う。

私もその中に交ざって、素直に感じた通りの自分の意見

を言った。

「私は”愛されるより愛したい”派だなぁ。相手よりもずっと

好きでいたいし。何より嫉妬するのが最高に楽しいじゃん。」

私がそう言うと、みんなは驚いたような顔をして、揃ってその

意見を否定した。

「嫉妬するのが楽しいわけないじゃん!」

「程々に嫉妬されるのはまだ良いけど、するのは嫌だなぁ。」

純粋なイメージの私からそんな意見が出るとは思わなかった

と、みんなは笑って話していた。

私も笑ってその中に交ざっていたが、自分の中では一般的

に普通な感覚だと思っていた事を、全員から否定されてし

まって、少しショックだった。

その出来事を境に、私は少し変わった感覚の持ち主なの

かな、と思うようになった。





数年後、私は就職した。そこで恋人もできた。

彼は2歳年上で成績優秀なエリート、顔も性格も良いと

評判で、同僚の女性はみんな彼を狙っていた。

私は特に干渉しなかったのだが、彼が選んだのは何故か

私だった。

別に悪い人でもないから…という簡単な思いで私は付き

合い始めた。

彼はとても紳士的で、素敵な美味しいお店も沢山知っていて

彼からの話題は尽きる事なく、いつも私を楽しませてくれた。

特に大きな喧嘩も無く、安定した二人の関係。もう1ヶ月

が過ぎていた。

幸せね…。幸せ?いいえ、そう言ってしまうと嘘になる。

私は幸せではない。はっきり彼の事を好きだと言えない。

なりゆきで付き合い始めた男性。そう簡単に好きとは感じ

られないに決まっている。

こんな気持ちで付き合っていて良いのだろうか。相手に失礼

ではないだろうか。

これからの二人の関係について考え始めたその頃、職場で

ある話が飛び込んできた。私は自分の耳を疑った。


彼が浮気をしている。


相手は同じ職場の女性だという。まさか、あんなに私を大事

にしてくれていた彼がそんな事をしていたなんて。

ショックではあるものの、何故か怒りや悲しみの感情はまっ

たくなく、それどころか喜びのような不思議な感情が身体の

奥底から湧き上がってくるのが分かった。

それに気づいた私は、少し吐き気を催して、自分が人とは

違う感覚の持ち主だという事を改めて痛感した。

その後、私が浮気を知った事に彼は気づき、「もうしない」

と何度も言いながら必死に謝ってきた。私は怒らず、「もう

二度としないでね。」とだけ言って、一般的な人間を演じた。

覚られてはいけない。私は普通の女でいたい。


だが、それを機に私は以前より少しだけ彼の事を好きに

なれた。自慢の彼氏だと思えるようになった。

私がそういう気持ちになってから、彼も気楽な付き合いを

してくれるようになり、前よりもずっと近づけたと思う。

私があやふやな気持ちで付き合っていたから、私に非があっ

たから、彼もあんな事をしたのだろう。

私も一般的な普通の女性に近づけたんだ。





二人でお店に行く時は、以前から私は絶対個室を選ばな

い。

無意識のうちに、自慢の彼氏を他の女に見せびらかしたい

と感じているのだろうか。周りの女の視線が彼に集まるのを

見ると、たまらなく嫉妬する。でも、それがとても心地良い。

自分では気づかぬうちに、私の不思議なあの感覚は、どん

どん進行しているのかもしれない。

そんな事をふと思い、私は不安から彼の手をぎゅっと握った。

彼も不思議そうな顔をして、でも無言で握り返してくれる。

そんな優しい彼の隣で、おかしくなりそうな感情と闘いながら

私は大丈夫だ、と必死に自分に言い聞かせた。






















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